「絶対面白いって!」
スマホを掲げながらクラスメイトが言う。
昼休みだとはいえ少しうるさい。
クラスメイトがやっているのははやりの動画サイトへの投稿用のダンスだろう。
ダンスといってもそれほど本格的なものでは無く、音楽に合わせて振り付けの面白さが人気に繋がっているものだ。
クラスの中心的メンバーといって差し支えない数人が大騒ぎをしながらその準備をしている。
教室の後ろの方で振り付けをしているクラスメイトをぼんやりと眺めて、それから視線を窓から教室の外へと移す。
誰かとああやって大騒ぎすることにあまり興味はない。
動画だって別に一人でだって作れる。
強がりでは無く、あまり人とつるむことが得意では無かった。
◆
「あの!KOUさんですよね!」
放課後図書室によって帰ろうとした時だった。
もう誰もいないと思っていた校舎の廊下で声をかけられて思わず振り向いてしまった。
多分それがいけなかった。
自分が動画を撮っている事は誰にも言ってないのだ。
動画を投稿するときの名前を知っている人間がいないのだから誰かに呼ばれる筈がないのに、思わず振り向いてしまった。
「ああ、やっぱり!首のほくろ動画に写ってたから。」
そんなところまでスマホで見ているのか。
だけど、首にほくろがある人間なんて世の中に沢山いる。
「何の話?」
とぼけるしかないだろう。
それに動画に写ってる自分と今の自分の見た目は明らかに違う。
それに、目の前の人間は、俺の投稿した動画を楽しんでいるタイプには見えなかった。
染めすぎていたんだ金髪と着崩した制服。
自分の投稿しているコスプレ動画をわざわざ見るとは思えない。
「何の話ってwikwokの話ですよ。俺もコスプレするんで憧れてるんですけど。」
コスプレという言葉と目の前のスクールカースト上位風の見た目が全くあっていない。
目の前の男はコスプレをするというより今日の昼休みに教室で見た様に友達と動画を撮る方が似合っている様に見える。
「あの、良かったら一緒に動画撮ってもらえませんか?」
俺、山田賢人っていいます。照れたように言われてもどう反応していいかわからない。
溜息をついて、それから今目の前にいる後輩らしき人間を見る。 オタクというにはかけ離れた華やかな容姿をしている。
とても、コスプレが本当に好きで話かけられたようには思えない。
だけど、ここで断ってあること無いこと言われるのは嫌だった。
「俺のうちへ行くんでいいか?」
目の前の男は、自分で切り出したクセに、驚いた顔をしている。
イキってコスプレしているオタクとして周りに触れて回られて、学校で面倒なことにはなりたく無かった。
せめて、ばらしたらこっちにも……みたいな取引材料が欲しかった。
別にコスプレをしている事を恥ずかしいと思ったことはないし、親もある程度気が付いている。
困ったという程でないことが逆に面倒な気がした。